最高裁判所で傍聴してきました
昨日、最高裁判所にて傍聴してきました。
私自身、裁判所で「傍聴」は初体験。大人の社会科見学です。厳かな雰囲気の建物に司法の最高機関の重みを感じました。
今回の裁判の傍聴席は19席。コロナの影響もあり、傍聴人数を絞っています。この傍聴券を求め、集まった傍聴希望者は85人。倍率約4.5倍の抽選に当たり傍聴することができました。
さて、本題です。
傍聴したのは「相続税更正処分等取り消し請求事件について」の裁判の判決。「不動産を活用した相続税対策」に係る人にとっては注目の裁判でした。
経緯
原告は、相続が発生する3年5か月前と2年6か月前に被相続人が購入した2つの不動産(購入価格はそれぞれ8.37億円と5.5億円)について、国税庁が出している「財産評価基本通達」によって相続税を申告したところ、税務署から「その評価方法は著しく不適当なので『鑑定評価額』で評価しなさい」とされ、更正処分を受け、この処分を不服として国と争っていたものです。
今回の事例では、相続発生前に不動産を借入金によって購入。2つの不動産の価格が合計13億8700万円に対し、通達に基づいた評価額は合計で3億3370万円。
取得費に占める借入金額の合計が10億5500万円であったことから、債務部分が差し引かれ、基礎控除を差し引いた結果、相続税の納付税額は「0」として申告しました。
税務署はこれに対し、通達による評価は不適当として不動産の評価を「鑑定評価額」により行い、相続税額の合計を2億4000万円として賦課決定しました。
関連する法律等
相続税法は22条で「 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。 」と定めています。
これを受けて、「財産評価基本通達」(以下「評価通達」)で、各種財産の具体的な評価方法が定められており、その中で土地は相続税路線価、建物(家屋)は固定資産税評価額で評価するものとされています。
一方、評価通達の評価方法を画一的に適用した場合には適正な時価評価が求められないことが考えられるため、同通達総則6項(以下「総則6項」)において、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という定めがあります。
争点
今回の裁判における争点は、相続財産の一部である不動産について通達による評価ではなく鑑定評価額で評価した価額を基礎として行われた更正処分の適否、ということになります。
判決
判決は「上告棄却」。すなわち、原告の主張は認められず、国の勝訴が確定、更正処分は適当であるというものでした。
分析
相続税の額は「相続税評価額」をもとに算出します。現金などはその時価が明らかなことから、評価額が容易に算出できますが、不動産は売りに出してみなければ通常はその時価(実勢価格)はわかりません。そこで一般的には「通達」に基づき土地は相続税路線価、建物は固定資産税評価額を基準にして算出することが認められています。
相続税額の根拠となる不動産の評価は前述の通り、「通達」に基づき土地は相続税路線価、建物は固定資産税評価により行うのが通常です。
しかし、場所によっては、あるいは建物によっては路線価や固定資産税評価額が実勢価格と大きく乖離することがあります。
過度な節税により、こうした節税手法を使わなかった場合、あるいは使いたくても使えない他の納税者と比べた場合に公平ではないという判断です。
今回の判決は原告側に明らかに相続税を減額あるいは「0」にする意図があったことを上げ、通達による画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるとして原審を支持し、上告を棄却しました。
伝家の宝刀
総則6項は国税庁の「伝家の宝刀」、などと言われることがあります。 つまり、 いざという大事な時以外にはめったに用いない物や手段 なのですが、最近、この伝家の宝刀が使われるケースが増えているといわれます。
金融機関や不動産業者、税理士などは節税目的としての不動産投資を勧めることがあります。今回の事例でもおそらく被相続人が不動産を購入する際にはそうした外部からのアドバイスがあったのではないかとも思います。
今回の判決が確定し判例となったことで、国税庁はお墨付きを得た形。今後は国税も総則6項が適用しやすくなると考えられます。
不動産を活用した相続税対策は一般的に珍しい手法ではありません。すべてのこうした節税対策を否定するものではないと思いますが、具体的にどのような場合に通達評価ではなく鑑定評価を行うべきなのかという基準は示されませんでした。
一方、不動産オーナーや不動産オーナーを顧客に持つ金融機関、不動産業者、税理士などは安易に不動産を活用した節税策を提案しにくくなったと考えられます。
不動産賃貸業を営む人にとって、不動産を活用した相続税対策はごく当たり前のことだともいえます。どんな場合に「伝家の宝刀」を抜かれる可能性があるかについてもう少し具体的な基準が示されるのを期待していましたが、今回の判決ではそこまで踏み込まれなかったことは残念に思います。